大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和42年(う)363号 判決

被告人 岩崎喜平 外五名

〔抄 録〕

所論は原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の適用の誤があると主張する。すなわち、原判決は、被告人岩崎喜平から押収に係る五千円日本銀行券二枚を没収する旨言い渡し、その理由として、右五千円札二枚は、原判示第一の四の被告人岩崎喜平より島田卯三八に対する供与行為を組成した物で犯人以外の者に属しないから、刑法第一九条第一項第一号第二項を適用して没収するとした。しかし右五千円札二枚は、島田卯三八が被告人岩崎喜平から供与を受けて取得し、その所有に帰したものであるから、本来ならば島田卯三八が収受した利益として公職選挙法第二二四条前段により島田卯三八から没収すべきところ、同人は、原審公判審理中の昭和四〇年一二月一八日死亡し、同人に対する公訴は棄却されたので、同人からは没収することができなくなり、かつ同人の死亡により同人所有の右五千円札二枚はその相続人の所有となり、そして同相続人はもとより犯人ではないのであるから、右五千円札二枚は相続により犯人以外の者に属することとなつたのであり、従つて原判決が刑法第一九条第一項第一号第二項を適用して、被告人岩崎喜平からこれを没収したのは、法令の解釈適用を誤つたものであると主張する。

よつて検討するに、原判決が主文第三項において被告人岩崎喜平から没収する旨を明にした前記五千円札二枚(東京高等裁判所昭和四二年押第一一九号の8に該当する原審昭和四〇年押第六五号の8)が、原判示第一の四の事実において、被告人岩崎喜平から原審相被告人島田卯三八に対し選挙運動の費用及び報酬として供与されたものの一部であり、卯三八から捜査官に提出されたこと、卯三八は、原審公判審理中の昭和四〇年一二月一八日死亡し、右五千円札二枚がその相続人の所有となつたことは記録に徴し明らかである。しかして刑法第一九条第二項にいう犯人には共犯者をも含むが、共犯者の死亡により物の所有権がその相続人に移つたときは、犯人以外の者の所有に属することとなつたのであり、従つて刑法第一九条第二項但書の場合以外はもはやこれを没収することはできないのである。そして、卯三八の相続人が、相続にあたり前記五千円札二枚につきその情を知つていたと認むべき事跡はなく、また卯三八は、右五千円札二枚を捜査官に提出するにあたり「用済みの上は法により処分して下さい」との処分意見書を付しているが、(第一分冊四一五丁)、右処分意見がただちに所有権の抛棄に該当するとも解し難い。

とすれば右五千円札二枚は、いずれの意味においても没収することができないのに、原判決が刑法第一九条第一項第一号第二項により被告人岩崎喜平よりこれを没収したのは、法令の解釈適用を誤つたか、あるいはその前提となる右金員の帰属についての事実を誤認したものであり、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中同被告人に関する部分はすでにこの点において破棄を免れない。

(樋口 関 小川)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!